東京高等裁判所 平成6年(行ケ)218号 判決 1996年3月19日
滋賀県大津市丸の内町2番36号
原告
株式会社イーグレックシステム
同代表者代表取締役
山口善章
同訴訟代理人弁理士
大塚康徳
同
松本研一
同
丸山幸雄
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 清川佑二
同指定代理人
長島孝志
同
江塚政弘
同
今野朗
同
吉野日出夫
同
関口博
主文
特許庁が平成4年審判第24229号事件について平成6年8月4日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和62年2月16日、名称を「フアクシミリインタフエース装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭62-31583号)をしたが、平成4年12月1日拒絶査定を受けたので、同年12月28日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成4年審判第24229号事件として審理した結果、平成6年8月4日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成6年8月31日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
情報処理装置の印刷装置用インタフエースに接続され送信情報を電話回線網に出力可能なフアクシミリインタフエース装置であって、
前記情報処理装置より前記印刷装置用インタフエースを介して前記印刷装置向けに送られる前記印刷装置への出力フオーマツトに従った印刷情報及び少なくとも前記印刷装置に対する制御情報を含む出力情報を受信する受信手段と、
該受信手段で受信した出力情報中の前記制御情報を解析する解析手段と、
該解析手段による解析結果に従って、前記出力情報中の前記印刷装置への出力フオーマツトに従った印刷情報を対応するイメージ情報に変換する変換手段と、
該変換手段で変換したイメージ情報を電話回線網に出力する出力手段とを備えることを特徴とするフアクシミリインタフエース装置。(別紙図面1第1図参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) 特開昭58-225766号公報(以下「引用例」という。)には、
コンピュータが出力した画像情報をオンラインで伝送して回線端のファクシミリ受信機が画像を記録する画像情報の伝送装置に関する発明が開示され、そこには、
「この発明は、従来の伝送装置の上記の欠点を除去するためになされたものであって、コンピュータが入力データを処理して送出した出力信号を、ファクシミリ受信機で処理できる記録信号に変換して、この記録信号をファクシミリ受信機が接続された回線に送出する変換装置を設けて人手操作の介在を除去する事により、中継操作の手間を省いて大量の画像情報を迅速正確に伝送出来る画像の伝送装置を提供するのを目的としている。
以下、この発明の一実施例を第3図(別紙図面2参照)を用いて説明する。
図に於いて(1)と(2)は従来の同符号と同じものである。
(13) はコンピュータであって、入力データを処理する処理機(3)((1)は誤りと認める。以下、同じ。)の端末に文字出力機(14)が接続されている。
(15) は文字出力機(14)に付属するインタフエースであって、文字出力機(14)が画像表示器の画面に形成した画像を出力紙(9)上にプリントするために送出するハードコピー信号を利用する事により、画像を走査して得た画情報を含む出力信号を送出する。
(16) は変換装置であって、その中に画像情報読取機(17)と画情報メモリ(18)と字素信号発生回路(19)と信号変換回路(20)とが直列に接続されて収容され、コンピュータ(13)の出力に接続されている。
画像情報読取機(17)は、コンピュータ(13)の処理機(1)が入力データを処理して得た画像を文字出力機(14)のインターフェース(15)が画情報として出力する出力信号を入力して、この出力信号から画情報を一語ずつ読み取った順序に画情報メモリ(18)に送入する。
画情報メモリ(18)は、画像情報読取機(17)から送入される画情報を一旦メモリ内に記憶して蓄え、ファクシミリ受信機(12)が処理できる速度で順次一語宛読出してこれを字素信号発生回路(19)に送入する。
字素信号発生回路(19)は、画情報メモリ(18)から逐次送入される一語一語をファクシミリ受信機が一字として処理できる字素に分解して、更にこれをシリアルドットデータに変換して字素信号を形成して、この字素信号を信号変換回路(20)に送入する。
信号変換回路(20)は、字素信号発生回路(19)から送入された字素信号を帯域圧縮等ファクシミリ装置として必要な信号処理を施してファクシミリ信号を形成し、このファクシミリ信号をファクシミリ受信機(12)に送入すれば、ファクシミリ受信機(12)が直ちに用紙の表面に画像を印字できる印字信号に変換してその出力端より出力する。
この変換装置(16)の中には更に回線制御機(20)が設けられ、信号変換回路(20)と多数のファクシミリ受信機(12a)、(12b)、・・・、(12n)に接続された多数の回線、(22a)、(22b)、・・・、(22n)の信号入力端との間に接続されている。」(甲第2号証2頁左下欄11行ないし3頁右上欄3行)の記載がある。
(3) そこで、本願発明と引用例に記載されたものとを比較検討する。
本願発明と上記引用例に記載されたものとは、共に、コンピュータを含む情報処理装置が入力データを処理して送出した出力信号を、ファクシミリ受信機で処理できる記録信号に変換して、この記録信号をファクシミリ受信機が接続された回線に送出することを目的とするものであり、本願発明の「情報処理装置」、「印刷装置用インタフェース」、「受信手段」、「変換手段」、「出力手段」は、引用例に記載のものにおける「コンピュータ(13)」、「文字出力機(14)」、「画像情報読取機(17)」、「字素信号発生回路(19)」、「信号変換回路(20)」にそれぞれ対応する。
それ故、両者は、
「情報処理装置より印刷装置用インタフェースを介して前記印刷装置向けに送られる前記印刷装置への出力情報を受信する受信手段と、該受信手段で受信した出力情報中の印刷情報を対応するイメージ情報に変換する手段と、該変換手段で変換したイメージ情報を電話回線網に出力する出力手段とを備える装置(ファクシミリインタフェース装置)」である点で一致する。
そして、次の点で相違する。
<1> 印刷装置向けに送られる前記印刷装置への出力情報を、本願発明では出力フオーマットに従った印刷情報及び少なくとも前記印刷装置に対する制御情報を含む出力情報としているのに対し、上記引用例では、出力紙上にプリントけるために送出するハードコピー信号と言うように、単に、出力情報とのみ表現している点。
<2> 本願発明では、受信手段で受信した出力情報中の前記制御情報を解析する解析手段を有するのに対し、引用例では、解析手段と明示していない点。
<3> 本願発明では、解析手段による解析結果に従って、前記出力情報中の前記印刷装置への出力フオーマットに従った印刷情報を対応するイメージ情報に変換するとしているのに対し、上記引用例の記載ではそのように詳細に記されていない点。
(4) そこで、相違点<1>について検討する。
コンピュータを含む情報処理装置から出力される印刷装置向けに送られる出力情報は、一般に、漢字キャラクタデータ、文字パターンデータあるいはイメージデータ等の印字する信号そのものの印刷情報と、印刷にあたり文字の種類、印字形式あるいは記録紙のどの部分に印刷するか等の制御情報を含むことはきわめて普通のことであり、この2つの情報により所望の印刷がなされるものである。したがって、上記引用例に記載のものは、格別、出力紙ヒにプリントするために送出する出力情報を印刷情報と制御情報からなると明記はしていないが、引用例のものの出力情報にもこれら2つの情報を含むことは、当該技術分野の当業者にとって自明のことにすぎない。
(5) 相違点<2>及び相違点<3>について検討する。
確かに、引用例では、解析手段と明示していないが、ファクシミリ装置では、送信側の情報がキャラクタ信号であればそれをイメージ情報に変換し、イメージ情報であればそのまま送出するものである。したがって、上記引用例に記載のものにおいても、印字する信号そのものの印刷情報の印刷にあたり、文字の種類、印字形式あるいは記録紙のどの部分に印刷するか等の制御情報を読取り判断する機能(即ち、本願発明の「解析手段」に相当)を、例えば変換装置(16)に有することは、特に記載がなくても理の当然のことである。
そして、コンピュータを含む情報処理装置から出力される印刷装置向けに送られる出力情報をファクシミリ装置に送信するに際して、情報処理装置の印刷装置に出力されるものと同等のものをファクシミリ装置で再現しようとするならば、前記印刷装置への出力フオーマットに従った印刷情報を対応するイメージ情報に変換しなければならないことも、当該技術分野の常識から当業者が容易に首肯できるところにすぎないので、この点も格別のことではない。
(6) したがって、本願発明は、引用例に記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、相違点<2>、<3>の認定は認め、その余は争う。同(4)ないし(6)は争う。
審決は、引用例に記載されたものの技術内容を誤認したため、本願発明との一致点を誤認し、相違点に対する判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の誤認)
<1> 審決は、「本願発明と上記引用例に記載されたものとは、共に、コンピュータを含む情報処理装置が入力データを処理して送出した出力信号を、ファクシミリ受信機で処理できる記録信号に変換」(甲第1号証6頁18行ないし7頁1行)することを目的とすると認定したが、誤りである。
本願発明においては、情報処理装置より印刷装置への出力フォーマットに従った印刷情報及び少なくとも前記印刷装置に対する制御情報を含む出力情報を受信する受信手段を備えるものであり、情報処理装置からの出力信号が、入力データを情報処理装置で処理したものであっても、予め情報処理装置に保存されていたものであっても、いずれの信号でもよいのに対し、引用例に記載のものは、コンピュータが入力データ処理して送出したものであり、共に、出力信号が入力データを処理して送出したものを対象とする点で共通するのみである。
<2> 審決は、本願発明における「印刷装置用インタフェース」が引用例に記載のものにおける「文字出力機(14)」に対応する(甲第1号証7頁4行ないし8行)と認定したが、誤りである。その結果、本願発明における「情報処理装置」、「受信手段」、「変換手段」、「出力手段」が、引用例に記載のものにおける「コンピュータ(13)」、「画像情報読取機(17)」、「字素信号発生回路(19)」、「信号変換回路(20)および回線制御機(21)」にそれぞれ対応するとの認定、本願発明と引用例に記載のものが、「情報処理装置より印刷装置用インターフェースを介して前記印刷装置向けに送られる前記印刷装置への出力情報を受信する受信手段と、該受信手段で受信した出力情報中の印刷情報を対応するイメージ情報に変換する変換手段と、該変換手段で変換したイメージ情報を電話回線網に出力する出力手段とを備える装置(ファクシミリインタフェース装置)」である点で一致するとの認定、並びに、相違点<1>の認定中の、引用例に記載のもののインターフェース(15)からハードコピー信号が出力される旨の認定も誤りである。
引用例(甲第2号証)の「(13)はコンピュータであって、入力データを処理する処理機(3)の端末に文字出力機(14)が接続されている。
(15)は文字出力機(14)に付属するインターフェースであって、文字出力機(14)が画像表示器の画面に形成した画像を出力紙(9)上にプリントするために送出するハードコピー信号を利用する事により、画像を走査して得た画情報を含む出力信号を送出する。」(2頁右下欄4行ないし12行)との記載から明らかなように、引用例に記載のものにおける文字出力機(14)は、画像表示器の画面に形成した画像を印刷紙にプリントするためのハードコピー信号を利用して画像を走査して得る、という特別な機能を備える装置である。文字出力機(14)に接続されているインターフェース(15)が本願発明における印刷装置用インターフェースであるとの認定だとしても、このインターフェース(15)は、上記特別な機能(画像を走査して得る機能)を有する文字処理装置(14)に接続されているインターフェースであり、ファクシミリ送信するためだけの特別なインターフェースでしかない。
(2) 取消事由2(相違点に対する判断の誤り)
<1> 審決は、相違点<1>に対する判断で、引用例に記載のもののインターフェース(15)からの出力情報にも印刷情報(漢字キャラクタデータ等の文字コードやイメージ情報)と制御情報が含まれることは、当業者にとって自明である旨判断するが(甲第1号証9頁10行ないし16行)、誤りである。
引用例(甲第2号証)の「(13)はコンピュータであって、入力データを処理する処理機(3)の端末に文字出力機(14)が接続されている。
(15)は文字出力機(14)に付属するインターフェースであって、文字出力機(14)が画像表示器の画面に形成した画像を出力紙(9)上にプリントするために送出するハードコピー信号を利用する事により、画像を走査して得た画情報を含む出力信号を送出する。」(2頁右下欄7行ないし11行)、「画像情報読取機(17)は、コンピュータ(13)の処理機(3)が入力データを処理して得た画像を文字出力機(14)のインタフェース(15)が画情報として出力する出力信号を入力して、この出力信号から画情報を一語ずつ読み取った順序に画情報メモリ(18)に送入する。」(2頁右下欄17行ないし3頁左上欄2行)との記載から明らかなように、引用例の出力情報は、画面を走査して得た文字コードのみからなる画情報である。そこには、印刷装置への出力フォーマットに従って印刷情報という概念はなく、更には印刷装置に対する制御情報は存在し得ない。
また、引用例では、ファクシミリ信号を生成する際に、その像を画像表示器の画面に表示することを必須条件としている。一般に、表示画面に表示される文字数がその装置によって異なることは知られている。したがって、引用例における文字出力機(14)からインターフェース(15)を介して変換装置(16)に送られる情報は、画像表示器の画面に形成された画像を走査して得た文字コードのみから成る単なる画情報であり、それらの間で交わされる画情報は予め決められたデータフォーマットに対応するように設計されていることになる。必然、変換装置(16)は、特別な機能を備える文字出力機(14)にのみ対応した装置である。
被告は、インターフェース(15)から送出される信号は印刷装置向けのハードコピー信号であると主張するけれども、インターフェース(15)から送出される信号は、飽くまで「ハードコピー信号を利用する」ものであり、ハードコピー信号とは明確に区別された「画像を走査して得た画像情報を含む出力信号」である。
また、仮に被告主張のとおり印刷装置向けの信号が変換装置(16)に送出されるとした場合には、その中に制御情報が含まれるはずであるが、引用例にはかかる記載や示唆がなく、制御情報の解析手段等の説明もない。
<2> したがって、インターフェース(15)からの出力信号に印刷情報(文字コードやイメージ情報)及び制御情報が含まれることを前提とする審決の相違点<2>及び相違点<3>に対する判断も、誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1<1>について
本願発明の特許請求の範囲においては、単に「情報処理装置より印刷装置用インタフェースを介して前記印刷装置向けに送られる前記印刷装置への出力フォーマットに従った印刷情報及び少なくとも前記印刷装置に対する制御情報を含む出力情報」と記載されているのみであり、どのようなデータを処理して送出した出力信号であるかの限定はなされておらず、この記載からは、上記出力信号としては、情報処理装置が「入力データを処理して送出」したものであっても、予め情報処理装置が保持しているデータを処理して送出したものであっても、いずれのものでもよいのである。他方、引用例に記載のものにおける出力信号は、コンピュータが入力データを処理して送出したものである(甲第2号証2頁左下欄12行、13行)。
したがって、本願発明の情報処理装置及び引用例のコンピュータは、共にその「出力信号」が、入力データを処理して送出したものを対象とする点で共通する。
(2) 取消事由1<2>及び取消事由2について
<1>(a) 引用例(甲第2号証)に記載のものにおけるコンピュータ(13)は、処理機(3)、及び、インターフェース(15)が付属した文字出力機(14)から構成されるが、引用例の第3図(別紙図面2)を参照すると、文字出力機(14)が送出したハードコピー信号は、インターフェース(15)に入り、そこで必要な電気的処理を施された後、インターフェース(15)からコンピュータ(13)の外部装置に送出されることは明らかである。また、上記「文字出力機(14)が画像表示器の画面に形成した画像出力紙(9)上にプリントするために送出するハードコピー信号」(2頁右下欄8行ないし10行)との記載からは、ハードコピー信号は、出力紙(9)上にプリントするために送出されるものであり、出力紙(9)上にプリントする以上、上記ハードコピー信号を受けて出力紙(9)上にプリントするめための印刷装置が必要なことは明らかである。
(b) 「ハードコピー」とは、「計算機内の情報を人間が読める印刷物の形で出力し、内容のコピー(複写物)を作ること、またはそれによって得られた印刷物。有形という意味でハードといわれ、プリント出力はその代表的な例である。」と説明される。また、一般に、コンピュータには、CRT、液晶表示装置等の画像表示器が接続されると共に、その内部には記憶装置が設けられている。この画像表示器は、コンピュータの入力情報を確認したり、コンピュータが処理した結果等を確認したりするために用いられ、入力情報及びコンピュータが処理した情報は上記記憶装置に記憶されると共に、画像表示器にいつでも表示することができる。そして、コンピュータ内に記憶された情報を印刷する場合には、上記情報を上記記憶装置から読み出し、必要に応じて画像表示器に表示し確認した後、ハードコピー信号を印刷装置に送出してプリントする。してみると、引用例の「ハードコピー信号」は、コンピュータ(13)の記憶装置に記憶されている印刷の対象となる情報と解される。
そして、印刷装置向けに送出される出力情報中には印刷情報(文字コードやイメージ情報)と制御情報とが含まれることは極めて普通のことであり、当業者にとって自明である。したがって、上記ハードコピー信号は、文字出力機(14)に付属するインターフェース(15)を介して、コンピュータ(13)の外部装置である上記印刷装置向けに送出されるものであることは明らかである。
(c) 以上のとおりであるから、インターフェース(15)からの出力信号は、印刷情報(文字コードやイメージ情報)と制御情報を含む印刷装置向けのものであり、文字出力機(14)も何ら特別な機能を持つものではない。
したがって、原告主張のその余の一致点の認定の誤り及び相違点に対する判断の誤りがあるとの取消事由も理由がない。
<2> 原告は、引用例の文字出力機(14)は、画像表示器の画面に形成した画像を印刷紙にプリントするためのハードコピー信号を利用して画像を走査して得る、という特別な機能を備える装置である旨主張する。しかし、「画像を走査して得た画情報」(甲第2号証10行、11行)とは文字コードとは区別されるべき「画情報」、すなわち、「イメージ情報」を意味しているものと解される。したがって、「画像を走査して得た画情報を含む出力信号」との記載は、「出力信号」が「イメージ情報」をも含むことを言い表している記載にすぎないと解される。
また、「形成した」(甲第2号証2頁右下欄8行、9行)の主語は、「文字出力機(14)」が兼ねていると考えたとしても、「文字出力機(14)」は、画像表示器の画面」に「画像」を形成するとともに、「ハードコピー信号」を「送出する」のである。そして、「インターフェース(15)」が、上記「ハードコピー信号を利用する事により」、「出力信号を送出する」のである。そして、結局、上記「ハードコピー信号」が、文字出力機(14)に付属するインターフェース(15)を介して、コンピュータ(13)の外部装置である印刷装置向けに送出されると解される(すなわち、「ハードコピー信号を利用する」とは、ハードコピー信号をそのまま利用すると解される)から、「付属するインターフェース(15)」を含めた「文字出力機(14)」の構成は、本願発明における「印刷装置向けインターフェース」に対応するものである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)、同(3)(本願発明と引用例に記載のものとの対比)のうち、相違点<2>、<3>の認定は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 甲第3号証(2頁右下欄19行、20行)及び甲第4号証(2頁9行ないし3頁6行)によれば、本願発明は、情報処理装置より印刷装置用インタフェースを介して印刷装置向けに送られる印刷装置への出力フォーマットに従った印刷情報(文字コードやイメージ情報)及び制御情報を含む出力情報を受信する受信手段と、該受信手段で受信した出力情報中の制御情報を解析する解析手段と、該解析手段による解析結果に従って出力情報中の印刷装置への出力フォーマットに従った印刷情報を対応するイメージ情報に変換する変換手段と、該変換手段で変換したイメージ情報を電話回線網に出力する出力手段とを備えるとの構成を採用することによって、どのような情報処理装置にも標準装備されている印刷装置用インターフェースに接続し、情報処理装置側に特別の出力データフォーマット作成の負担をかけず、容易に他のファクシミリ装置との通信を可能にするというものであると認められる。
(2) 次に、引用例の記載事項について検討する。
<1> 引用例(甲第2号証)には、コンピュータが出力した画像情報をオンラインで伝送して回線端のファクシミリ受信機が画像を記録する画像情報の伝送装置に関する発明が開示され、その発明の詳細な説明中に「コンピュータが入力データを処理して送出した出力信号を、ファクシミリ受信機が接続された回線に送出する変換装置を設けて人手操作の介在を除去する事により、中継操作の手間を省いて大量の画像情報を迅速正確に伝送出来る画像の伝送装置を提供するのを目的としている。」(2頁左下欄12行ないし19行)と記載されていることは、前記のとおり、当事者間に争いがなく、この記載に特許請求の範囲第1項、第2項の記載を加えると、引用例に記載のものが、コンピュータからの出力信号をファクシミリ信号に変換することを基本的構成とするものであることが認められる。
<2> しかしながら、引用例には、引用例に記載のものにおいて、インターフェース(15)からの出力信号が印刷情報及び制御信号を含むものであることまで開示されているものと認あることはできない。
引用例(甲第2号証)には、その発明の詳細な説明中に「(13)はコンピュータであって、入力データを処理する処理機(3)の端末に文字出力機(14)が接続されている。
(15)は文字出力機(14)に付属するインターフェースであって、文字出力機(14)が画像表示器の画面に形成した画像を出力紙(9)上にプリントするために送出するハードコピー信号を利用する事により、画像を走査して得た画情報を含む出力信号を送出する。」(2頁右下欄4行ないし12行)との記載があることは、前記のとおり、当事者間に争いがない。
被告は、上記記載を根拠として、文字出力機(14)からイメージ情報を含むハードコピー信号が送出され、それがインターフェース(15)から出力される旨主張するが、この記載をその文言のみから被告主張のとおりに理解することは困難である。また、引用例の発明の詳細な説明中の他の記載等を参酌しても、上記記載を被告主張のように理解することはできない。
すなわち、
(a) 上記ハードコピー信号が通常は印刷装置向けの信号であり、印刷情報(文字コードやイメージ情報)及び制御情報から成っているとしても、「ハードコピー信号を利用する事により」との記載は、インターフェース(15)から出力される信号は、上記ハードコピー信号そのものではないことを示している可能性を生じさせる。
(b) インターフェース(15)に印刷装置が接続されている等、インターフェース(15)からの出力信号が印刷装置向けのものであることを示唆する記載もない。
(c) また、画像を走査して得た「画情報」(2頁右下欄11行)も、被告の主張するとおり、イメージ情報を含むものと解するには疑問が生ずる。
まず、「画情報」との用語は一般的なものとは認められず、また、引用例の発明の詳細な説明中で定義がされていないが、画像を走査して得られるものである以上、イメージ情報をも意味すると解する余地がある。
しかしながら、引用例の発明の詳細な説明中に、「(16)は変換装置であって、その中に画像情報読取機(17)と画情報メモリ(18)と字素信号発生回路(19)と信号変換回路(20)とが直列に接続されて収容され、コンピュータ(13)の出力に接続されている。
画像情報読取機(17)は、コンピュータ(13)の処理機(3)が入力データを処理して得た画像を文字出力機(14)のインターフェース(15)が画情報として出力する出力信号を入力して、この出力信号から画情報を一語ずつ読み取って、読み取った順序に画情報メモリ(18)に送入する。
画情報メモリ(16)は、画像情報読取機(17)から送入される画情報を一旦メモリ内に記憶して蓄え、ファクシミリ受信機(12)が処理できる速度で順次一語宛読出してこれを字素信号発生回路(19)に送入する。
字素信号発生回路(19)は、画情報メモリ(18)から逐次送入される一語一語をファクシミリ受信機が一字として処理出来る字素に分解して、更にこれをシリアルドットデータに変換して字素信号を形成して、この字素信号を信号変換回路(20)に送入する。」(2頁右下欄13行ないし3頁左上欄11行)と記載されていることは、前記のとおり、当事者間に争いがなく、この記載に第3図(別紙図面1)を参酌すると、画像情報読取機(17)は、インタフェースの出力信号である画情報を一語ずつ読み取って、読み取った順序に画情報メモリ(18)に送入して蓄え、字素信号発生回路(19)で字素に分解して字素信号を形成し、これを変換回路(20)に送入することが示されているから、ここで記載された「画情報」とは、字素信号発生回路(19)でシリアルドットデータに変換されるべきもの、すなわち、文字コード情報を意味するものとして使用されていることが認められ、変換を要しないイメージ情報をも意味するものとは認め難い。
(d) 引用例中の上記変換装置に関する記載(2頁右下欄13行ないし3頁左上欄11行)には、イメージ情報が送入された場合の処理方法や上記制御情報を解析する解析手段について記載されておらず、それらを示唆する記載も見いだすことはできない。審決は、相違点<2>及び相違点<3>に対する判断の中で、イメージ情報であれば、そのまま送出し、解析手段が例えば変換装置(16)にあることは理の当然である旨判断するが、その判断は、変換装置(16)に印刷情報(文字コードやイメージ情報)及び制御情報が送入されていることを前提とした判断にすぎない。
(3) 以上に説示したことからすると、引用例に記載のものにおいて、インターフェース(15)からの出力信号が、印刷装置向けの印刷情報(文字コードやイメージ情報)及び制御情報を含むものとまで解することはできないから、本願発明における「印刷装置用インタフェース」が引用例に記載のものにおける「文字出力機(14)」に対応するとの認定、相違点<1>に対する判断及び相違点<1>の認定中の引用例に記載のもののインターフェース(15)からハードコピー信号が出力される旨の認定は誤りであり、また、各手段の有する機能も異なるものとなってくるから、本願発明における「情報処理装置」、「受信手段」、「変換手段」が、引用例に記載のものにおける「コンピュータ(13)」、「画像情報読取機(17)」、「字素信号発生回路(19)」にそれぞれ対応するとの認定、並びに、本願発明と引用例に記載のものが、「情報処理装置より印刷装置用インターフェースを介して前記印刷装置向けに送られる前記印刷装置への出力情報を受信する受信手段と、該受信手段で受信した出力情報中の印刷情報を対応するイメージ情報に変換する変換手段とを備える装置(ファクシミリインタフェース装置)」である点で一致するとの認定は誤りであり、相違点<2>及び相違点<3>に対する判断も、誤りである。
そして、以上の認定及び判断の誤りが審決の結論に影響することは明らかである。
3 よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面 1
<省略>
別紙図面 2
<省略>